「家族信託」と「成年後見制度」の違いとは?

「家族信託」と「成年後見制度」の違いとは?

目次

突然ですが、皆さんは「家族信託とは何?」「成年後見制度ってどんな制度?」「どんな違いがあるの?」などと聞かれたら、正しく説明できますか?

この 2 つの制度は、将来の財産管理対策として比較される場面が多くありますが、それぞれによってできることが異なってきます。

そこで今回の記事では、どちらを利用すべきか迷われている方でもわかるように、家族信託とはどういったものかや、成年後見制度との違いについてご説明いたします。

認知症になったら、どうなるの?

「家族信託」と「成年後見制度」は、「認知症による資産凍結問題」への対策として利用・比較されることが多い制度です。

両者の違いについて触れる前に、まずは「認知症になったらどうなるのか」について詳しく見ていきましょう。

認知症とは 「脳細胞が死滅してしまったり、活動量が低下してしまったりすることで、認知能力や精神機能に様々な障害が起こり、日常生活を送る上で支障が出てしまっている状態」 のことを言います。

一般的に、認知症と聞くと「物忘れ」の状態を思い浮かべる方が多いかと思いますが、認知症と物忘れは全く別物です。

認知症になると、単なる物忘れにとどまらず、 物事を理解する能力や判断能力 がだんだん衰えていってしまうのです。

「自分の行った行為そのもの」や「自分の行為によってどのような結果が生じるのか」を判断する能力のことを「意思能力」と呼びますが、認知症などによりこの意思能力が低下・喪失してしまうと、あらゆる法律行為ができなくなってしまう可能性があります。

意思能力が喪失した人が行った法律行為は、無効とされてしまうからです。

認知症によりできなくなる恐れのある法律行為は、以下のようなものがあります。

  • 預貯金口座の解約、引出し
  • 不動産の売却、購入、賃貸契約
  • 遺言書の作成
  • 生命保険の加入、解約
  • 遺産分割協議
  • 生前贈与
  • 養子縁組
  • 介護施設の入所契約 など

このような行為を自分自身で行えなくなり、所有している資産を管理・処分することができなくなってしまう状態のことを、「認知症による資産凍結」と言います。

資産凍結のリスクは、今や5人に1人?!

資産凍結のリスクは、今や5人に1人?!

お読み頂いている方の中には「うちの両親はまだまだ元気だし、認知症になりそうもない」「資産凍結になんてならないから大丈夫」と思われる方もいらっしゃるでしょう。

しかし、 現実には認知症は思ったよりもずっと身近な病気 です。

厚生労働省の発表によると、高齢化が進展している今、認知症患者数は年々増加傾向にあり、2025 年には認知症患者数は約 730 万人、つまり 65 歳以上の高齢者における認知症患者数は 5 人に 1 人にのぼると推計されています。認知症は決して他人事ではないのです。

「人生 100 年時代」と呼ばれている今、私たち一人ひとりが認知症に対する理解を深め、認知症になる可能性があることを想定して、将来起こりうるリスクに対して、どのように対処すべきかを考えることが大切です。

認知症になった時に起こる問題についてまとめた記事はこちら 『認知症になった時に起こる問題』

認知症になった時に起こる問題についてまとめた記事はこちら

「家族信託」と「成年後見制度」ってどんな仕組みなの?

前項でお伝えしたような認知症にまつわる問題を解決する手段として 「家族信託」「成年後見制度」が知られています。

それぞれ一体どのような制度なのか、簡単に見ていきましょう。

家族信託とは

家族信託とは、 意思能力があるうちに、自身の持つ財産を信頼のおける家族に託し、自分に代わってその家族に財産の管理・運用・処分を行ってもらう仕組みのことです。

家族信託について詳しくまとめた記事はこちら


事前に本人(財産の所有者)の意思や希望を尊重した契約を家族との間で締結しておくことで、本人が元気なうちから、家族が本人の財産管理を行うことができます。

そのため仮に本人が将来、認知症を発症したとしても、資産が凍結されることはなく、家族が管理し続けることができます。

「大切な家族の財産を、家族で守る」ことができるのです。

家族信託は「認知症による資産凍結」への備えだけではなく、「相続対策」や「事業承継」「親亡き後問題」など、様々な問題を解決する手段として注目を集めています。

成年後見制度とは

成年後見制度とは、認知症などにより意思能力が低下・喪失してしまった人に代わり、財産管理・契約手続き等の法律行為や、身上監護と呼ばれる生活を支えるためのサポートを行う制度です。

  • 財産管理:金銭の管理や不動産の管理・処分など
  • 身上監護:介護等の福祉サービス、住居に関する手続きなど、生活のサポート行為

基本的な業務内容は上記 2 つですが、成年後見制度は「法定後見」と「任意後見」の 2 種類に分けられます。

法定後見の場合「誰を後見人として選ぶか」といった内容は、基本的に全て家庭裁判所の審判に依存することになるため、本人の意思を反映させることが難しいといった課題があります。

一方で任意後見の場合、本人の意思能力があるうちに契約を締結することになるため、これらの内容を本人の希望に沿って事前に決めることが可能です。

しかし、利用を開始するタイミングで、家庭裁判所によって必ず「任意後見監督人」が選任されることになるため、いずれの場合も家庭裁判所の監督下で管理を行っていく形になります。

成年後見制度についてより詳しくまとめた記事はこちら

家族信託と成年後見制度の具体的な違いは???メリットとデメリットはあるの?

では、ここからは家族信託と成年後見制度の具体的な違いについてご説明します。

細かく比較していくと本当に様々な違いがありますが、大きな違いとしては以下の 5 点が挙げられます。

  • 利用にあたってかかる費用の違い
  • 効力が発生するタイミングの違い
  • 財産の管理者として指定できる人の違い
  • 財産の管理・処分など、できることの違い
  • 生前の相続対策における違い

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

利用にあたって発生する費用の違い

成年後見制度と家族信託は、どちらも利用にあたって費用が発生します。

家族信託を利用するにあたって発生する費用について解説した記事はこちら

導入時にかかる費用で比べると、家族信託の方が高額に感じられるかもしれませんが、利用を開始してから発生する費用も含めて考えた時、両者には大きな違いがあるのです。

まず成年後見制度の場合、利用を開始すると本人の財産から後見人に対して毎月報酬を支払うことになります。

報酬の金額は本人の財産額によっても異なりますが、家庭裁判所によって決められ、最低でも毎月2万円〜6万円が発生すると言われています。

任意後見の場合であっても、後見監督人に対しては毎月 2 万円程度の報酬が発生します。 成年後見制度の利用は途中でやめることができないため、本人が亡くなるまでずっと費用が発生し続けてしまうのです。

仮に月額 3 万円の報酬で 10 年間利用した場合、後見人への報酬額は 360 万円という計算になります。

一方で家族信託の場合、契約によっては受託者報酬や信託監督人報酬などが発生するケースもありますが、月額 2 万〜6 万円といった成年後見制度ほど高額なランニングコストが発生することは想定されません。

初期費用だけで比較するのではなく、将来的に支払うことになる費用まで考えたうえで、どちらを利用するのが適切なのかを慎重に判断できるようにしましょう。

効力が発生するタイミングの違い

成年後見制度は 「本人の意思能力が喪失した後(※1)」から効力が発生するのに対し、家族信託は 「本人の意思能力が低下・喪失する前」から効力が発生します。

もう少し具体的に言うと、成年後見制度は認知症などが進み、既に意思能力が低下・喪失したことによって 「預貯金を下ろすことができない」「不動産の売却ができない」「介護施設への入居手続きといった必要な契約行為ができない」など、何かしらの不都合が実際に生じ、利用せざるを得ない状況に直面してから利用が開始されるケースがほとんどです。

一方で家族信託は、認知症などにより意思能力が低下・喪失してしまう前に契約を締結します。

契約締結と同時に効力が発生するため、上記のように「預貯金を下ろすことができない」「不動産の売却ができない」「介護施設への入居手続きといった必要な契約行為ができない」などの 不都合が生じる前から、利用を開始することができるのです。

反対に言えば、認知症などにより意思能力が低下・喪失してしまう前でないと利用を開始することができません。

※1 意思能力を喪失する前は、意思能力低下の度合いに応じて「保佐」「補助」という制度があります。また任意後見制度の場合、契約締結自体は本人の意思能力が低下・喪失する前に行いますが、実際に利用を開始できるのは、前に述べた通り本人の意思能力が低下・喪失した後となります。

財産の管理者として指定できる人の違い

成年後見制度では、家族が後見人になるケースは少ないです(※2)。

基本的には、弁護士や司法書士といった第三者が家庭裁判所から選任されることになるからです。

前述した通り任意後見制度であれば、予め親族を後見人として指定することができますが、家庭裁判所により選任される「任意後見監督人」が就くことになるため、家庭裁判所の管理下に置かれることになります。

一方で家族信託の場合、予め親族などの「財産管理を託したい人」を指定することができるため、成年後見制度のように自分の財産が家庭裁判所の管理下に置かれることはありません。

大切な財産を、ご家族間で管理することができます。

※2 被後見人の親族が後見人として任命された割合は 21.8%(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況-平成 31 年 1 月〜令和元年 12 月-」)

財産に関してできること

成年後見制度は、あくまでも本人の現有財産の維持・保護を図ることが最大の目的となるため、積極的に財産を運用するような行為は想定されていません。

そのため、賃貸物件などを所有していた場合に、家族が「売却して現金化したい」「より収益性が高い物件に買い替えたい」などと申し出ても、後見人が認めなかったり、仮に後見人が認めたとしても家庭裁判所の許可が下りないことがあるのです。

基本的に「直接的に本人のためにならない」「本人の財産を減らす」ことに繋がる行為は認められません。

一方で家族信託の場合、本人の意思能力のあるうちに、本人の希望に沿って定めた方法により財産の管理が行われるため、本人が望むのであれば、基本的に本人の希望に沿う範囲で財産管理を行うことができます。

孫の学費にしたり、自分のペットのために使ったり、ご自身がお世話になった団体に寄付するなどの運用をすることも可能です。

本人が亡くなった後の相続対策

成年後見制度では、被後見人が亡くなると同時に後見業務が終了するため、本人が亡くなった後の相続手続きは、遺言を作成しておかない限り、相続人により遺産分割協議を行う必要があります。

そのため、遺産分割協議において相続を巡った争いが起きる「争族」となることもあります。

一方、家族信託であれば、信託契約の中で本人が亡くなった後の信託財産の承継先を指定することが可能です。

承継先を指定しておけば、遺言書を残していた場合と同様に、相続手続きをスムーズに行うことができるのです。

結局、認知症に有効なのは家族信託と成年後見制度のどちら?

結局、認知症に有効なのは家族信託と成年後見制度のどちら?

今回の記事では、家族信託とはどういったものなのかや、成年後見制度の概要、両者の違いについてご説明してきました。

結局、認知症に有効なのは「家族信託」と「成年後見制度」のどちらなのでしょうか。

財産の所有者やそのご家族の状況によって、どちらの利用が最適かどうかは異なってきます。ご本人が既に認知症により意思能力を喪失していたら、成年後見制度しか利用することはできません。

しかし、ご本人に意思能力があるのであれば、認知症による資産凍結対策として、成年後見制度を利用することはあまりオススメできません。

何かと負担や制約が多く、本人や家族の望むような柔軟な財産管理を行うことができなくなってしまうからです。

その点、家族信託であれば、成年後見制度では実現することが難しい部分についても、本人の意思を尊重することができます。 ご家族の「想い」や「希望」を実現し、安心した生活を送れるようにするための解決手段となり得るのです。

ただ繰り返しになりますが、家族信託は意思能力を喪失してしまった後では組成することができないため注意が必要です。

認知症と診断されたからといって利用できないという訳ではありませんが、手遅れになり「成年後見制度でしか対策できない」という事態に陥ることがないようにしましょう。

意思能力があるうちは「家族信託」から、既に喪失してしまったのであれば「成年後見制度」で検討を進めてみてはいかがでしょうか。



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